突然ですが(本当に突然)
「松の枝にとまる鶴」みたいな構図の絵、
皆さんきっとドコかで見た事がありますよね?
掛け軸とか屏風とか……
ありがたそうな巻物とか……
▲実物はこんなアホっぽい鶴じゃないと思うけれども
そんな構図の絵に描かれているツルは
ほとんどが「タンチョウ」という種類のツル。
松とタンチョウはとてもおめでたい組み合わせとして
昔から色々な絵のモチーフとして使われてきました。
松は常緑樹(1年中葉が緑)なので「不老長寿」の象徴。
鶴は「鶴は千年、亀は万年」というように「長寿」の象徴だったり、
鶴の夫婦が仲良しな事から「夫婦鶴(めおとづる)」と呼ばれ、
結婚式などおめでたい席にピッタリ!
……と、松と鶴はダブルでおめでたい象徴なのです。
ただし。
せっかくだから絵だけじゃなくて
ホンモノの「松の枝にとまる鶴」が見てみたいよねー。
……という願いはたぶん一生叶いません。
試しにGoogle画像検索とかしてみてください。
松の枝にとまってるタンチョウの写真なんてどこにもない!
それもそのハズ。
実はタンチョウは松の枝にとまることができないんです。
とまれないんだから写真もない。
北海道に行っても見られない。
昔からたくさん「松の枝にとまる鶴」が描かれているのに、
実際にはありえない風景という事になります。
一体どういう事なんでしょうか??
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「松の枝にとまる鶴」なのに、ツルは松にとまれない!?
「松の枝にとまる鶴」としてよく描かれているのは、
とっても目立つ赤い頭に白い体、黒い模様……
という特徴から
間違いなくタンチョウというツルの仲間。
でも、タンチョウさんに聞いてみたところ、
どうやら人違いならぬ「トリ違い」だそう。
その理由をすこぶる簡単に言うと、
松にツルがとまっているのはオカシイ事だからです。
理由①:ツルは松にとまれない
そもそも、ツルって木の枝にとまれないんだよねー。
木にとまれるツルさんも一応いるけど……
厳密には木の枝にとまれるツルもいるといえばいますが、
それはアフリカのサバンナに住んでいる
「カンムリヅル」と「ホオジロカンムリヅル」の2種類だけ。
どちらも日本には棲んでいませんし、
そもそもタンチョウとは姿が全然似ていません。
ツルが木の枝にとまれない理由は足のカタチにあります。
↑のイラストを見てもらうと、
後ろ向きの1本の指がとても短いのがわかりますよね。
これでは、木の枝をしっかりとつかむ事ができません。
もし枝に乗れたとしても、
ツルっとすべって落ちてしまうでしょう。
……ツルだけに(?)。
……とにかく、
タンチョウの足は木にとまれるように出来てないんです。
理由②:そもそもとまる必要がない
それに、僕たち基本ずーっと地面で生活してるから
木にとまりたいなんて思った事もないよ。
タンチョウの生活に松のような高い木はほとんど必要ありません。
- 水辺で魚やカエルなどのゴハンを食べて、
- 地面の上で片足になって寝て、
- プロポーズのダンスも地面で踊るし、
- ヒナのための巣だって地上に作ります。
つまり、木にとまる機会が全くない!
ニンゲンは鶴と松がおめでた~いベストコンビだと勝手に思っていますが、
実はお互いに名前が思い出せないくらいの
うす~い関係かもしれない……?
本当は「松の枝にとまる鸛(コウノトリ)」だった!
……という訳で「松の枝にとまる鶴」は
実際にはあり得ないシーンだという事が判明してしまいました。
ありがた~い巻物の作者の方々は
ちゃんとタンチョウさんを見て描いたのかなあ?
自分の想像で描いちゃったのかなあ?
なんてめちゃくちゃ失礼な疑問が脳裏をよぎりますが、
「松の枝にとまる鶴」という構図は
決してウソとか妄想とかではありません。
確かに松にとまる鳥がいたんです。
それが、コウノトリ。
「松の枝にとまる鶴」は、
ツルとコウノトリを見間違えて描かれたもの
という説が今のところイチバン有力なんですよ。
タンチョウさんとコウノトリさんはそっくりさん
▲コウノトリさんとタンチョウさん。
コウノトリさんとタンチョウさんに並んでもらいました。
「黒・白・赤」というカラーリングがどことなく似てるし、
クチバシや首、足が長い体型もなんとなく似てますよね。
モチロンよーく見ればちゃんと見分けはつきますが、
高い松の上にとまっていたら細かい部分は見えないし、
見間違えてもおかしくないかも。
コウノトリなら松にとまれる
タンチョウさんは木にとまれないと言いましたが、
コウノトリさんは木の枝にもバッチリとまれます。
なんかめちゃくちゃマジメに鳥の足描いてる
コウノトリさんはタンチョウさんと違って
後ろ向きの1本の指が長いので、
前の指と後ろの指で木の枝を挟むことができます。
ツルではないので
ツルッとすべる事はありません(スベッてますよ)。
コウノトリさんも実は「枝をしっかり掴む」ことはできない
コウノトリさんの指はしっかりとして丈夫そうですが、
意外と掴む力(握力)は弱いらしく、
木にとまる時には枝をしっかり掴むのではなくて
枝の上に乗ってバランスを取っているんだって。
後ろ向きの指が長いおかげで
前にツルッと滑らず上手にバランスが取れるんですね!
コウノトリ専門家の方から情報をご提供いただきました。
ありがとうございますm(_ _)m
それに、
コウノトリは実際に松の木のてっぺんに巣を作ってたらしい!
これは「松の枝にとまるコウノトリ」が実在した
紛れもない証拠ですなあ。
今は本物のコウノトリを見る機会はあまりありませんが、
コウノトリはもともと日本の広い地域にいて
昔の人にとっては結構身近な鳥だったようです。
だからこそ、
ツルと見間違える事がかなり多かったのかも。
日本の野生のコウノトリは絶滅してしまいましたが、
現在は人工繁殖などで少しずつ数が増えてきています。
いつか本物の「松の枝にとまるコウノトリ」、
見てみたいよね~!
でも、やっぱり松と鶴はベストコンビだよね。
……という事で「松の枝にとまる鶴」は、
タンチョウさんとコウノトリさんを見間違えた説がとっても濃厚。
松にとまる鶴は実際にはいませんが、
だからこそ想像上の生き物みたいで神秘的!
実在するかどうかなんて野暮なことは置いといて、
カッコいいベストコンビに違いはありませんね。
ちなみに、他にも
●単純に「鶴と松」っていうおめでたい生き物を一緒に描いただけ
●「サギが木にとまれるならツルもとまれるハズ」と勝手に想像して描いた
なんていう説もあります。
……が、
見間違えの方がオモシロイので絶対見間違えです。